今回は、貴志祐介のホラー小説集『秋雨物語』の感想を綴っていきたいと思います。
ホラーとミステリが融合した前作『梅雨物語』の姉妹編的な位置づけだが、本作は「アイデアの面白さ」が際立つ4編が収録されている。 単なる幽霊や呪いではなく、SFチックな「奇妙な味」や人間の業の深さが絡み合い、読み進めるごとに予想外の方向へ連れて行かれる感覚は、まさに貴志祐介の真骨頂。
秋の冷たい雨のように静かで、しかし強烈な不穏さを残す各エピソードの見どころを、ネタバレなしで紹介したいと思います。
目次
収録作のあらすじと感想
第1編:「餓鬼の田」
<あらすじ>
社員旅行で訪れた立山黒部アルペンルート。主人公の美晴は、密かに思いを寄せる男性社員・青田が早朝に一人で歩いているのを見かける。彼に恋人はいないのかと尋ねる美晴に対し、青田は「自分は前世の罪により『餓鬼』として生まれ変わったため、絶対に恋人とは結ばれない運命にある」という、思いもよらない話を始めるーー。
感想
巻頭を飾る短めの作品だが、さりげない怖さが秀逸だ。「前世の罪」というオカルトチックな設定と、それが本当なのか、ただの妄想なのか分からない不気味さ。いわゆる「ヒトコワ」と「奇妙な味」が絶妙なバランスで混ざり合っており、一気に物語の世界へ引き込まれた。
第2編:「フーグ」
あらすじ
行方不明になった作家が残した書きかけの小説。そこには、彼自身が「見知らぬ場所の夢を見た後、無意識にその場所へ瞬間移動させられてしまう」という恐ろしい体験を繰り返していることが記されていた。移動先が海や宇宙空間であれば命に関わるため、彼はその宿命に必死に抗おうとしていたのだが……。
感想
超自然的な力に振り回される男を描いた、スケール感のあるSFホラーである。読み進めるほどに「次はどこへ飛ばされるのか?」というワクワク感があるものの、結末にはそれを裏切るような強烈なブラックユーモアが待っている。運命に抗い続けた人間の末路に、思わず背筋が凍った。
第3編:「白鳥の歌(スワン・ソング)」
あらすじ
鳴かず飛ばずの作家が、資産家の老人から「幻の日系アメリカ人歌手、ミツコ・ジョーンズの伝記を書いてほしい」と依頼を受ける。SPレコードから流れる彼女の超絶的な歌声に圧倒される主人公だが、アメリカでの調査が進むにつれ、その奇跡の歌声の裏に隠された「オカルト的な真実」が明らかになっていく。
感想 音楽やオーディオ機器への深い蘊蓄が随所に散りばめられており、普段から音響の質感や空間の響きにこだわる人間にとってはたまらないリアリティと没入感がある。美しい音楽を巡る数奇な物語かと思いきや、思いもよらない方向へ二転三転していく展開は見事の一言。極上の音楽奇談である。
第4編:「こっくりさん」
あらすじ
自殺を考えていた少年は、難病の友人から闇の「こっくりさん」に誘われる。それは命に関わる難題を抱えた4人が集まり、3人は「人生をやり直すチャンス」を得られるものの、残る1人は「命を落とす」というロシアン・ルーレット的な儀式だった。廃病院に集まった事情を抱える少年少女4人は、禁断の儀式に挑むのだが……。
感想
よくある「デスゲーム」的な展開かと思いきや、そこは貴志祐介作品、全く予想外の方向へ進んでいく。「誰かが犠牲にならなければ救われない」という極限状態に置かれた子供たちの心理描写がリアルで、犠牲は本当に1人で済むのか? という不穏さがずっと付き纏う。強烈な後味を残す、読み応え抜群のホラーだ。
総評:予測不能な「奇妙な味」を堪能できる一冊
『梅雨物語』が、じっとりとまとわりつくようなホラーサスペンスだとしたら、今回の『秋雨物語』は、日常の裏側にぽっかりと空いた「異次元の穴」を覗き込むような、不思議で冷たい恐怖があった。
個人的には、音への執念と狂気が入り混じる第3編「白鳥の歌(スワン・ソング)」の展開が特にお気に入りだ。
- 予測不能な「奇妙な味」の物語が好きな人
- 単なる幽霊話ではない、SFやオカルトが融合したホラーを読みたい人
- 秋の夜長に、じっくりと上質な恐怖に浸りたい人
貴志祐介の引き出しの多さに改めて驚かされる傑作短編集。静かな夜のお供に、ぜひページをめくってみてほしい。